「……あの、さんって、折原くんと仲良かったよね?」
「え……まあ……良くもなく、悪くもなく……といったところ、かな……」
「これ、折原くんに渡してほしいの!」

 廊下を歩いていたら突然声をかけられた。もじもじと気恥ずかしそうなその態度にわたしは自分と同じ性別である相手に、不覚ながらドキリとしてしまった。そして目の前に差し出されたものを見て更に心臓が飛び出るかと思った。けど、差し出されたもの、手紙に書かれている名前を見て、今度は違った意味で心臓が飛び出そうになった。女の子らしいかわいらしい、丸っこい字で書かれた折原くんへ、の文字。それと彼女の言葉にえええええ、とわたし叫ぼうとしたが、その声も聞かずに名前も知らない女子生徒(多分、隣のクラスの子だ)は去ってしまった。わたしは彼女のポニーテールが揺れる後ろ姿を見ることしかできず、手元に残ったのはハートのシールの貼られた薄いピンクの封筒だった。

「と、いうわけで、はい」
「そんな今更ラブレターだなんて、俺はの気持ちなんてとっくの昔に理解しているよ?」
「話聞いてた?」

 頼まれてしまった以上、渡さないわけにはいかない。本当はあの彼女を這ってでも引きとめてイザくんの本性について二時間くらい語り明かしたかったのだけど、それを実行する前にイザくんにラブレターなどという酔狂にも程がある少女はわたしの前からさっさといなくなってしまった。わからない、こんな男のどこがいいのか、わたしには全くわからない。いいところなんて顔しかない、そんな人間だ、イザくんという人は。「何、そんなに俺の顔まじまじと見つめちゃって、惚れ直した?」なんて言ってくるから、思いっきり弁慶の泣き所を蹴ってやった。ら、さすがに痛かったようで、声にならない悲鳴をあげてその場に蹲るイザくん。

「……っ! 、本当に暴力的に、なった、よね」
「そんなことないよー」

 少し涙目になったイザくんがわたしを見上げる。自分にSっ気があるとは思っていないけど、なかなか心地よい。あれ、じゃあやっぱりわたしはSなのだろうか。自分の性癖について思案していると、イザくんはわたしに蹴られた個所を擦りながら少しよろけながらも立ち上がった。人差指で自分の目に僅かに浮かんだ涙を拭きとり、その手ともう片方の手で手紙を破り捨てた。わたしが、(多分)隣のクラスの女の子に頼まれて渡した、イザくん宛てのラブレターを、彼はあろうことか破り捨てたのだ。中身どころか裏に書かれた名前も読まずに、だ。

「な、何、やって、」
「んー? だって別にいらないし」

 俺はがいればそれでいいしね、なんてとても爽やかな笑顔で言う。けど、やってることは全くもって爽やかではない、その正反対だ。最低だ。前々から思っていたけど、やっぱりこの人は最低だ。こんなに最低なのに、人間は俺を愛するべきだとか言ってるけど、どうやったらこんな人間に愛を注げられるのだろうか。わたしに散々好きだ好きだと言ってくるけど、なぜわたしが彼に同じ感情を抱くことができると思っているのか。わからない。

「いらないって、そんなの、ひどいよ。そんな性格だけど、どこがいいのか全然わからないけど、イザくんのこと想って書いた手紙、なのに」
「俺がもらったものを俺がどうしようと勝手だろう? それに、俺が人に愛されるのは当然のことだし。だって俺は人間が好きだから、向こうも俺を好きであるべきなんだよ。そんな当たり前のことをされてもねえ。でも俺は人間以上にが好きだから、君の想いさえあればいいんだよ」

 他人からの評価がどうでもよくなるくらい、が好きなんだよ! って両手を広げてにこにこと喋るイザくんに心底腹が立って、思わず彼の頬に紅葉を咲かせてやった。

 ああ、隣のクラスのあの子に、なんて言えばいいんだろう。